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京都地方裁判所 昭和55年(ワ)1378号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

1 訴外岡谷酸素株式会社と被告は継続的ガス供給契約を締結し、被告は岡谷酸素から被告の長野工場については昭和四一年一二月から、穂高工場については昭和四四年一二月から液化石油ガスの供給消費設備を貸与されていたところ、被告は昭和五三年ころから岡谷酸素の供給する液化石油ガスの価格が高いとして値下げを要求し、右価格について話合いがつかなかつたことから被告は同年一〇月ころから訴外日米鉐油株式会社をして液化石油ガスの供給を受けるようになつた。

しかしてそのころ被告は岡谷酸素を相手として松本簡易裁判所に対し、被告の長野、穂高両工場に設置してある岡谷酸素所有の液化石油ガス供給消費設備の買取りの調停を申立てたが右調停は昭和五四年一月二五日不調に終り、逆に同年二月六日に至り、岡谷酸素は被告を相手として長野地方裁判所松本支部に対し右各設備の引渡を求める断行の仮処分を申請するに至つた。

右引渡を求める根拠は、岡谷酸素と被告との継続的ガス供給契約上、被告は岡谷酸素のガスの納入を受ける限りにおいて右各設備を使用しうるにすぎず、この点に関し被告は契約上の義務違反が顕著であり、かつ右各設備の保安責任上、早急に岡谷酸素が返還を受ける必要性があることを理由とするものであり、本件仮処分事件については被保全権利、保全の必要性につき岡谷酸素側に充分な根拠があつたとみられる。

2 しかるところ、原告は本件仮処分事件の第一回審尋期日の昭和五四年二月二一日後の同年三月上旬、本件仮処分事件の委任を受けたが、本件仮処分事件が認容されれば、被告は莫大な操業利益を失う旨原告に対し試算説明し、右損失は被告の工場閉鎖に伴う損害として、長野、穂高両工場で六億三四〇〇万円、関連する大野工場関係で四億八〇〇〇万円、工場閉鎖に伴う従業員解雇による退職金等の損失が五億三〇〇〇万円、その他推計困難な諸々の損失が出るとのことであつた。

他方、本件仮処分事件で引渡を求められている設備の価格はそれ自体は金一六〇〇万円位であつた。

3 被告の本件受任事件についての依頼目的は右2の損失が現実化することを防ぎ、被告の長野、穂高両工場の操業を継続することができるようにすることであつて、そのためには本件仮処分事件において被告が勝訴することが一方法であると同時に、岡谷酸素は仮処分命令申請のほかに、長野県知事に対するガス供給設備の廃止届の提出という手続をとつて、被告が本件仮処分事件の対象となつた設備を使用しえなくする手段があることから、依頼目的は本件仮処分事件の処理にとどまらず、原告において長野県当局と交渉し、行政指導を被告に有利に展開させるほか、その他長野、穂高両工場の操業停止の事態を回避するために関連する方策一般にわたつていたと見られる。

4 原告は右依頼の趣旨、目的に沿つて活動したが、その状況は次のとおりであつた。

(一) 被告の総務課長西幡奎二との打合せ約一〇回。

(二) 昭和五四年三月九日から同年七月一七日まで長野地方裁判所、同松本支部へ延べ一四日間の出張。

右の間、原告は本件仮処分事件の審尋期日に二回出頭。担当裁判官面接四回。陳述書計六通提出(各陳述書は本件仮処分事件につき、被告代理人として為すべき主張は通常以下のものではない)。

(三) 同年五月六日長野県庁へ出張して商工部と接渉し、右接渉以外に同年四月五日付の要望書を提出。なお、右商工部の担当課長と約一〇数回程電話での応対、接渉。右接渉の趣旨は本件仮処分事件の説明と、岡谷酸素からの液化石油ガス供給消費設備の廃止届を受理しないよう働きかけることにあつた。

(四) 以上の活動のための原告の事務所内での準備等の活動には三〇日を下らないものと推認される。

5 右の経過の中で、同年五月一五日、岡谷酸素から、被告の長野工場および穂高工場に設置されている液化石油ガス供給消費設備につき高圧ガス取締法第二一条による廃止届がなされ、それに伴い被告は右両工場の設備につきストレイジタンク方式からボンベ方式に切り換え操業し、液化石油ガスの無許可製造、消費という事態の回避を計つた。

同年七月一六日、岡谷酸素は本件仮処分事件につき申請の趣旨を減縮し、引渡を求める対象を、知事の許可を要する液化石油ガスの製造に当らない代替施設によつて、被告の右両工場に液化石油ガスを供給消費するのに必要な最少限の部分の既存の設備以外のものとし、同月一九日、長野地方裁判所松本支部は右減縮された申請の趣旨を金三〇〇万円の保証を立てさせて認容した。

以上の結果、被告は長野、穂高両工場の操業停止を免れ、従前通りの操業が可能となり、ここに本件委任事件はその事件処理を終了した。

6 以上の事態の推移に鑑みると、被告が結果として長野、穂高両工場の操業停止を免れたのは原告の労力のみによるとは俄かに断定しがたいけれど、原告の活動が右結果に貢献した度合いは少くないものと推認できる。

【判旨】

四前項で検討した各事情を総合すれば、本件受任事件につき、被告の経済的利益は莫大であり算定不能或いは予測不可能というべきでかつその利益は大阪弁護士会報酬規定一七条の三〇〇万円とするには低額に失すること明らかであること、他方前項の経緯から推察される本件受任事件の困難性、原告が昭和五四年三月から同年七月にかけての約四ヵ月間余りの期間とはいえ本件受任事件に集中的に労力を費したものとみられること、本件受任事件の結果、その他弁論の全趣旨から認められる当事者双方の諸般の事情を考慮し、結論において原告の主張する日数制に依るのが最も妥当であると考えられる。

しかして原告の本件受任事件に費した日数は前示のとおり四四日間を下らないものと認められ、当裁判所は一日につき金五万円が妥当と判断するので、本件受任事件の報酬額は金二二〇万円とするのが相当である。

五請求原因七項で原告の主張する1、2、4の各費用は原告本人尋問の結果および弁論の全趣旨ならびに前記三項の経緯に照し、これを相当な費用と認めることができるが、3の費用は報酬および1、2、4の実費と別個に本件受任事件の費用として計上するには証拠不充分である。

従つて、請求原因七項で主張する実費としては金三六万二〇〇〇円の範囲でこれを認めることができる。

六以上によれば原告は本件受任事件において被告に請求しうる報酬および諸費用の合計は金二五六万二〇〇〇円となるところ、請求原因八項のとおり原告は被告から本件受任事件の処理に要する費用として昭和五四年四月一九日に金一〇〇万円を受領していることは当事者間に争いがないので、結局原告の請求は被告に対し右金二五六万二〇〇〇円と右金一〇〇万円との差額である金一五六万二〇〇〇円およびこれに対する本件受任事件の事務処理終了後でありかつ原告の主張する昭和五四年八月二八日から支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当である。

(永井ユタカ)

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